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第115回日本精神神経学会学術総会を終えて
2019年6月20-22日の3日間、新潟市の朱鷺メッセにおいて、第115回日本精神神経学会学術総会(会長:染矢俊幸、副会長:松田ひろし)を開催いたしました。 総会のテーマは「-ときをこえてはばたけ- 人・こころ・脳をつなぐ精神医学」。「こころの問題に適切に対応するためにはその現象をよく理解することが大切で、そのためには基盤にある「脳」機能の理解を深めなければならない。たとえその道筋が困難でも、それを乗り越えていく必要がある。一方で、還元的理解ではなく総体としての人間、一人ひとりの「人」を主役において「こころ」・「脳」をつなぐ精神医学、その人の人生経験や価値観を理解する医学をめざしたい」という染矢俊幸大会長の精神医学への思いと、本総会を通じて精神医学の未来を模索し、次のステージへの架け橋にしたいという願いが込められたテーマでした。
日本精神神経学会は精神神経領域を代表する基幹学会ですが、学術総会での一般演題は例年300題前後という状況が続いてきました。染矢大会長は「精神神経領域の専門性の多様さから、親学会であるこの総会に自らの知見を持ち寄り、一般演題として発表するという土壌・文化が十分に形成されていない」と問題提起し、一般演題の充実を目標に掲げて、全国の精神医学教室、関連の学会や団体などに広く呼び掛けました。また、新たに「特別ポスターコーナー」を設け、各専門学会や関連団体と広く連携することで、参加者が専門内外の領域についての現状と課題を共有し、情報交換できる場を実現しました。これらの取り組みによって、約1300題にのぼる一般演題登録を達成することができたことも新潟大会の特筆すべき成果といえます。
当日、新潟自慢の塩むすびを手にしながら和気あいあいとディスカッションする光景がみられた特別ポスターコーナーはもとより、会場に足を運んだ来場者の人数と熱気はこれまでの学会には見られなかったものであり、参加された先生方から「ポスターセッションの充実ぶりはまるで国際学会のよう」「会場にすごい人数」「学会の新しい姿を作り上げたエポックメイキングな大会」「新しい発想で革新的な学会スタイルを体現」「精神神経学会新時代の幕開け」など多くの高い評価をいただき、事務局として感無量でした。われわれが目指した「会員が主体的に関わる学会」が多少なりとも実現できたのではないかと考えております。
会長講演では、本学会7番目の開催地となり、今回を含め3回目の総会開催となった新潟のまち、そのまちに新潟大学が生まれた歴史がまず紹介され、当時の、すなわち日本に近代医学が導入された頃の精神医学を取り巻く世界の動向が概説されました。続いて精神科診断学が20世紀半ばに直面した課題とそれに対して生まれた新しい動き、その後生じた「診断基準が規定するものが疾患である」という誤解、それに対応するための提言など、精神医学の課題が詳しく展望されました。さらに、診断学の整備を受けた精神疾患の病因・病態研究や治療学研究の成果、特に患者の身体的側面という視点に着目した新たな研究領域の展開、新潟中越地震対策等の災害精神医学、精神科医療構造の将来予測、に及ぶ実に幅広い内容が提示され、かつそれらが見事に統合された講演でした。神庭理事長をはじめ、多くの聴衆から賞賛の声が寄せられましたが、あたかも「日本最長の大河信濃川が多くの流れを集めて滔々と流れるが如き」で、大きな精神医学の潮流がときをこえて理解され、心に刻み込まれました。
会長企画シンポジウム1「科学的根拠に基づいた精神保健医療政策立案:病床推計から見たこれからの方向性」では、斬新な着眼点と解析手法で日本の精神科医療の将来が的確に予測された経緯が紹介されました。会場からたくさんの質問や意見が飛び交い、精神科医療をより良いものにしたいという参加者の真摯な姿勢が感じられる活発なシンポジウムでした。
次いで、会長企画2「統合失調症患者の生命と健康を守るための新たなる視点」では、精神疾患患者が直面する死亡リスクやその身体的背景を総括し、各身体リスクの予防や多職種で取り組むことの重要性など、これまで取り上げられることの少なかった新たな研究分野の展開について情報共有がなされました。
今回の総会で初めて実現した日本神経科学学会との連携シンポジウムでは、精神疾患の病態解明へ向けて新たな方向性を示唆する最先端の神経科学について議論がなされました。基礎と臨床の枠を超えて、こころの基盤となる脳機能を理解しようとする参加者の熱意が感じられました。
「新潟を楽しんでいただきたい」との気持ちを込めて、おもてなし満載で催された懇親会は、信濃川をのぞむ萬代橋のたもとのホテルで300人以上の先生方で賑わい、大いに盛り上がりました。神庭理事長のご挨拶では、大会長はじめ事務局に対し、今回のテーマや運営についての身に余るお言葉を頂戴しました。来賓の花角新潟県知事からは「精神医学が心理社会的にも果たす役割が大きい。その基幹学会たる本総会をこの新潟の地で開催いただいたことに感謝したい」とのご祝辞をいただきました。海外からご招待した先生方からも「I
am very impressed with the JSPN meeting in Niigata!!」「Congratulations to
an excellent meeting in Niigata which fulfilled all expectations!!」など賞賛のお言葉をたくさんいただきました。皆様には、新潟が誇る地酒やお寿司、さらには染矢大会長の小唄にのせた古町芸妓の舞をご堪能いただき、新潟の古き良き伝統と美味旬魚を十分に味わっていただけたのではないかと思っております。
大会初日の夜には、染矢大会長のご招待による会長招宴も開かれました。神庭学会理事長はじめ学会理事の先生方や山崎日本精神科病院協会会長に加え、海外からご招待した先生方、そして今回の学会に多大なるご協力をいただいた各大学講座の先生方をお招きし、新潟市内にある伝統的料亭「行形亭」にて盛大に行いました。この会では、参加者の皆さまコミュニケーションはすべて英語でとっておられましたが、染矢大会長の小唄は健在で、古町芸妓の舞や新潟の地酒、美味旬魚を存分に堪能いただきました。MCを担当した須貝は慣れない英語に戸惑いながらも、著名な先生方と親睦を深め、とても有意義な時間を過ごすことが出来ました。
総会開催に先立って発刊し、総会の概要などをまとめた新聞特集号(新潟日報)には、市民から当日参加を希望する声が多く寄せられ、大変な反響でした。学会開催中も会場内で特集号の無料配布を行い、手に取った来場者の方から好評をいただきました。
最終日に開催した市民公開講座『うちの家族は大丈夫?やめたい・・でもやめられない 依存を理解する』は予想を上回る約300人の参加者に恵まれ、大変盛況でした。また素朴な内容からわれわれも深く考えさせられる内容まで多くの質問が飛び交い、その社会的関心の高さを直に感じることができました。
新潟は本学会と所縁の深い地です。1935年に7番目の開催地として開かれた第34回総会は「新潟革命」とも呼ばれ、学会名が「日本神経学会」から「日本精神神経学会」に、機関誌も「神経学雑誌」から「精神神経学雑誌」に改められ、これを機に本学会は日本の精神医学を牽引するプロパーの学会としての旗幟を鮮明にしたとされています。後に本学会の英文機関誌「Psychiatry
and Clinical Neurosciences」となる本邦初の欧文精神神経学雑誌「Folia Psychiatrica et Neurologica
Japonica」が第34回総会の2年前に創刊されていますが、その創刊にも新潟は深く関わっており「学会の国際化」に大きな一歩を踏み出した地です。
『これまた本会としては稀有の盛会なりき。来会者一同渾然融和するが如き観あり』、この文章は神経学雑誌第38巻第8号の雑報欄からの抜粋ですが、第34回が大変盛況であったことが窺えます。第115回もそのような盛大で活況な学術総会になるよう準備を重ねてまいりましたが、元号が改まったこの年、「精神神経学会新時代の幕開け」「令和の新潟革命」といった評価をいただけたことに深く感謝を申し上げます。
開催2日前には山形県沖を震源とする震度6強の地震が発生しました。被災された皆様に心よりお見舞いを申し上げます。揺れの強かった新潟県北部地域が大きく報道されたこともあり、地震直後から開催を不安視する問い合わせが相次ぎました。およそ1000人程度の参加者が減少したと思われますが、そうした中6000人を超える方々にご参加いただき、学会及び運営事務局を代表し、改めて厚く御礼申し上げます。
最後になりますが、日本精神神経学会のますますの発展を祈念いたしまして、第115回日本精神神経学会学術総会の報告とさせていただきます。
事務局長 須貝 拓朗
渡部 雄一郎
福井 直樹
第115回日本精神神経学会学術総会
第115回日本精神神経学会学術総会プログラム集
会場 朱鷺メッセ
会長講演
会長講演
会長講演会場
にぎわうポスターセッション-1
にぎわうポスターセッション-2
会長招宴
懇親会会場へ船で移動
神庭理事長による乾杯の音頭
花角新潟県知事より懇親会にて挨拶
にぎわう懇親会々場
坪谷先生 優秀演題賞受賞
懇親会 染矢会長の小唄で踊る古町芸妓
華麗な古町芸妓の舞